スラックスを買って店員さんに「裾はどうされますか」と聞かれたとき、とりあえずシングルで、と答えていました。ダブルとの違いを説明できなかったからです。調べ直してみると、この選択は好みの問題であると同時に、脚の見え方と、あとで丈を直せるかどうかまで左右していました。この記事では、裾の形が何を変えるのかと、仕上がりを言葉ではなく数字で店に渡す方法をまとめます。
裾は、スラックスの中でいちばん人の目に入る
座っているとき、相手の視界に入っているのは腰まわりではなく足元です。テーブルの下、電車の向かいの席、エレベーターの中。生地の質や仕立ての良し悪しより先に、裾の形と長さが目に入ってきます。
そのわりに、裾は買ったあとで決める部分です。生地も色もシルエットも売り場で選べるのに、裾だけは「シングルかダブルか」「丈は何センチか」と口頭で伝えて、出来上がってから初めて見る。唯一、注文で決まる部分なのに、いちばん考えずに答えてしまう場所でもあります。
ここを詰めておくと、同じスラックスの見え方が変わります。しかも追加の費用はかかりません。伝え方を変えるだけ。
シングルは脚が長く、ダブルは重心が下がる
形の違いは単純です。シングルは裾を内側に折り込んで縫う。ダブルは外側に折り返して、折り返した分が表から見える。
この差が何を生むかというと、水平の線が1本か2本かです。シングルなら裾の下端に線が1本だけ。ダブルは下端の線に加えて、折り返しの上端にもう1本できます。
| シングル | ダブル | |
|---|---|---|
| 表から見える水平の線 | 1本 | 2本 |
| 視線が止まる位置 | 裾の下端 | 折り返しの上端 |
| 裾まわりの布の量 | 少ない | 折り返しのぶん増える |
| 裾の落ち方 | 軽く動く | 重みで下に落ち着く |
| あとで丈を伸ばす余地 | 残りやすい | 折り返しに使っていて少ない |
上から2行目が効きます。人は水平の線で視線を止めるので、ダブルだと止まる位置が床から数センチ上がる。結果として脚の縦の流れが途中で切られ、重心が下がって見えます。逆にシングルは切れ目が下端の1本だけなので、床まで線がつながって脚が長く見えやすい。
どちらが正解という話ではありません。背が高くて脚が余って見える人は、ダブルで重心を下げたほうが落ち着く。身長が高くない人がダブルにすると、切られた分だけ短く見えます。自分の体型に対して、線をどこで止めたいかで選ぶ話です。
クッションはゼロからハーフで足りる
クッションというのは、裾が靴の甲に乗って布がたわむ量のことです。たわみがまったくなければノークッション、浅い折れが1本入るのがハーフクッション、はっきり折れて布がたるむのがワンクッション。
ここで先に言っておくべきことがあります。この3つは規格ではありません。ハーフクッションが何センチのたわみを指すのかは、店によって、担当した人によって違います。同じ言葉で頼んで違う物が出てくる。
そのうえで、選び方の目安を書きます。今のスラックスはシルエットが細めに寄っているので、たるみが多いと裾だけが余って見えます。ゼロからハーフ、つまりたわみは無いか、あっても浅い折れ1本まで。ここに収めておけば、ほとんどの場面で長すぎには見えません。
ワンクッションが向くのは、裾幅が広めのスラックスと、ダブルにして重心を下げにいく場合です。細身のスラックスにワンクッションを合わせると、足首で布が余って、靴の上でくしゃっと止まる。ここが崩れて見える一番の原因でした。
靴を履いて合わせないと決まらない
クッションは靴の甲の高さで変わります。甲の低い革靴で合わせた丈のまま、甲の高いスニーカーを履くとたわみが増えてワンクッション寄りになる。逆も起きます。
だから採寸は、そのスラックスで一番よく履く靴を持ち込んで行う。面倒でも、これをやらないと丈は決まりません。店で借りたスリッパの高さで合わせた丈は、家で履くとどこかしらずれます。
既製の裾上げ済みは3センチ刻みでしか選べない
裾上げをしない選択肢もあります。最初から仕上がっている商品です。
たとえば裾上げ済みで売られているノータックのスラックスを見ると、股下は71cm、74cm、77cmの3タイプ、ウエストは76cmから110cmまで用意されていました。ウエストは細かく選べるのに、股下は3種類しかない。
刻みは3cmです。自分にちょうどいい股下が72cmや73cmだった場合、71cmを選べば1cm短く、74cmを選べば1〜2cm長い。最大で1.5cmずれる勘定になります。
1.5cmと聞くと小さく思えますが、これはクッションがゼロなのかハーフなのかが変わる幅です。さきほど「たわみは浅い折れ1本まで」と書いた、その1本ぶんがまるごと動く。
こういう商品のページには、たいてい「ウエスト補正・裾上げ加工は対応しておりません」と書かれています。届いてから直す前提でもない。すぐ履ける手軽さと引き換えに、丈の精度を諦める買い方です。予備の1本、来客用、急ぎで必要になったとき。用途を割り切れば悪くありません。
物足りないところ|ダブルを選ばないほうがいい場面
ダブルの見え方が好きでも、避けたほうがいい状況があります。
まず、丈を伸ばす可能性が少しでもあるとき。ダブルは折り返しに布を使っているので、同じ股下に仕上げるならシングルより長い状態から切ることになります。つまり裾に残る余りが少ない。あとから伸ばしたくなったとき、先に行き止まりに当たるのはダブルのほうです。
次に、雨の日が多い通勤路。折り返しは上を向いた溝なので、水も埃も溜まります。自転車通勤や、駅から距離がある人は、掃除の手間が地味に増える。
それから、礼装まわり。冠婚葬祭の装いでは裾をシングルにするのが決まりとされる場面があります。1本を使い回すつもりなら、この点は先に確認しておいたほうがいい。
最後に、僕自身の考えも書いておきます。ここまで見え方の理屈を並べましたが、裾の形を変えても、丈が合っていなければ意味がありません。シングルとダブルの差より、1.5cmの丈のずれのほうが見た目に効く。迷っているなら、形を悩む前に手持ちの1本を測るところから始めるのが順番です。
裾上げの指定は、言葉でなく数字で渡す
ここが本題です。「ちょっと短めで」「くるぶしが隠れるくらい」といった伝え方は、受け取る側が自分の基準に置き換えて作業します。ずれる原因はほぼこれ。
店に渡す3つの数字
- 股下の仕上がり寸法。またの縫い目から裾の下端までを、cmで伝える。手持ちのちょうどいい1本を測って、その数字を持っていくのがいちばん早い
- ダブルにするなら折り返しの幅。何cmで折るかを自分で決めて伝える。指定しなければ店の標準幅になり、その値は店ごとに違う
- 前下がりの有無。前と後ろで長さを変えるか、同じにするか。変えるなら前を何cm短くするかまで
1つ目がいちばん大事です。今持っているスラックスの中で、履いたときの丈が気に入っている1本を選び、床に置いてまたの縫い目から裾までを測る。その数字をそのまま渡す。言葉を介さずに済むので、思っていた物と違う仕上がりになりません。
2つ目の折り返し幅は、指定しないと店の標準で仕上がります。自分の好みが標準と合っていれば問題ありませんが、合っていなかったときに直す手段がない。折り返しを解いて幅を変えるには、また裾を作り直すことになります。
3つ目の前下がりは、前だけを少し短くする仕上げのことです。靴の甲に当たる前側だけたわみを減らせるので、後ろの丈を保ったままクッションを浅くできる。ダブルでは前下がりを付けないのが普通なので、ここも形を決めた時点で選べる幅が変わる部分になります。
まとめ
裾の形が変えているのは、表から見える水平の線の本数でした。シングルは1本で床まで線がつながり、脚が長く見えやすい。ダブルは折り返しの上端にもう1本できるぶん、視線が止まって重心が下がります。
クッションはゼロからハーフに収めておけば、今のシルエットのスラックスでは長すぎに見えません。ただしこの3つの呼び名は規格ではないので、店に言葉で伝えると食い違います。
渡すべきは数字です。股下の仕上がり寸法、ダブルにするなら折り返しの幅、そして前下がりの有無。手持ちのちょうどいい1本を測って、その値をそのまま持っていくのがいちばん確実でした。既製の裾上げ済みが3cm刻みなのは、この数字を自分で決めない買い方だからです。
※本記事はプロモーションを含みます

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