スーツを長持ちさせるには、クリーニングの頻度を上げればいいと思われがちです。ところが実際は逆で、クリーニングは生地を傷める行為でもあります。本当に効くのは、毎日の数分の手入れのほうです。この記事では、家でできることを順番に整理します。
クリーニングは万能ではない
まず前提を整理します。
ドライクリーニングは油性の汚れを落とすのに有効ですが、溶剤が生地の油分も一緒に落とします。繰り返すと、風合いが硬くなり、ツヤが失われます。
また、プレスの熱と圧力も生地に負担をかけます。毎月出していると、数年で明らかに疲れた見た目になる。
適正な頻度はシーズンに1〜2回。夏物なら汗をかくのでもう少し多くてもいいですが、月1回は明らかに出しすぎです。
最も効くのは「休ませる」こと
費用ゼロで、しかも最も効果が大きい対策です。
スーツは1日着ると、体温と汗で湿気を含みます。その状態で翌日も着れば、乾く時間がないまま湿気が積み上がる。
湿気は型崩れとカビの原因になり、繊維も傷みます。
| 着方 | 寿命の目安 |
|---|---|
| 1着を毎日着る | 1〜2年で疲れる |
| 2着を交互に着る | 3〜5年持つ |
| 3着を回す | さらに長持ちする |
2着を交互に回すだけで、単純な2倍以上に持ちます。1着を毎日着るより、2着を交互に着るほうがトータルの費用は安くなる計算です。
毎日やる3つのこと
帰宅後の数分で、状態が大きく変わります。
帰宅したらやる
- ポケットの中身を全部出す。型崩れの原因になる
- 厚みのあるハンガーに掛ける。針金は肩に跡がつく
- ブラシをかける。ほこりと汚れを落とす
3つ目のブラッシングが、実は最も効きます。繊維に入り込んだほこりを落とすだけで、汚れの蓄積と虫食いを防げます。しかも所要時間は1分程度です。
洋服ブラシは数千円で買えて、何年も使えます。クリーニング1回分の費用で、何年も使える道具が手に入ると考えると投資としては明快です。
ブラシのかけ方
やり方を知っておくと、効果が違います。
正しいブラッシング
- 上から下へ、繊維の流れに沿ってかける
- 肩・襟・袖口を重点的に。汚れが溜まりやすい
- 力を入れない。撫でるくらいで十分
- 毛の種類は馬毛か豚毛。化繊は静電気が起きる
力を入れる必要はありません。強くこすると生地を痛めますし、そもそもほこりは軽い力で落ちます。
毛の硬さについては、ウールのスーツなら馬毛が定番です。柔らかく、繊維を傷めにくい。豚毛はやや硬めで、汚れ落としの力は強くなります。
しわと匂いは家で取れる
クリーニングに出さなくても対処できる範囲があります。
| 症状 | 家でできる対処 |
|---|---|
| 軽いしわ | 浴室に吊るして湯気を当てる。15分ほど |
| 匂い | 風通しの良い場所に半日吊るす |
| パンツの折り目が消えた | 当て布をしてアイロン |
| 部分的な汚れ | 固く絞った布で叩く。こすらない |
湯気を使う方法は、出張先でも使える定番の手です。繊維がゆるんで、衣類自身の重さでしわが伸びます。
匂いについては、焼肉や煙草の匂いなら半日から一晩吊るしておくとかなり抜けます。毎回クリーニングに出す必要はありません。
部分的な汚れは、こすらずに叩くのが原則です。こすると繊維の奥に押し込むうえ、そこだけ毛羽立ちます。
シーズンオフの保管
しまい方で、翌シーズンの状態が決まります。
しまう前にやること
- クリーニングに出してからしまう。汚れは虫を呼ぶ
- ビニールカバーは外す。湿気がこもる
- 不織布のカバーに替えるか、カバーなしで
- 防虫剤を入れる。ウールは虫に食われる
2つ目が典型的なつまずきです。クリーニングのビニールを掛けたまましまうと、湿気が閉じ込められてカビます。持ち帰ったら必ず外してください。
防虫剤については、種類を混ぜないこと。成分によっては化学反応を起こして、生地にシミができることがあります。
パンツのほうが先に傷む
上下で消耗の速度が違うことも知っておくと役に立ちます。
パンツは座る・歩く・擦れるという動作を常に受けます。ジャケットより明らかに早く傷み、特にお尻と内ももが先にテカります。
だからスーツを買うとき、同じ生地のパンツを2本にする(ツーパンツ)という選択肢があります。上下がちぐはぐになるのを防げるので、結果的に長く着られる。
既にある1本を大事に使うなら、座るときに膝を軽く持ち上げて生地の張りを逃がす、という細かい所作でも摩耗は減らせます。
季節で必要な手入れが変わる
同じスーツでも、季節によって受けるダメージが違います。
| 季節 | 主なダメージ | 対策 |
|---|---|---|
| 夏 | 汗と皮脂。裏地が傷む | 着用後に風を通す。汗をかいた日は特に |
| 梅雨 | 湿気とカビ | 除湿。密閉して保管しない |
| 秋 | 比較的穏やか | 通常の手入れで足りる |
| 冬 | 静電気とほこり | ブラッシングの頻度を上げる |
夏の汗は、裏地と脇の部分を確実に傷めます。見た目に出にくいぶん放置されがちですが、汗の塩分が繊維に残ると劣化が進みます。
夏物は他の季節より、クリーニングの頻度を上げてもいい。ただしそれでも月1回は多すぎます。着用後に風を通す習慣のほうが、はるかに効果があります。
小さな破損は早く直す
放っておくと、直せない段階まで進みます。
| 症状 | 放置するとどうなるか | 対処 |
|---|---|---|
| ボタンが緩い | 紛失する。同じものが手に入らない | 緩んだ時点で付け直す |
| 裾のほつれ | 広がって直せなくなる | 早めに補修に出す |
| ポケットの角の擦れ | 穴になる | 詰めすぎをやめる |
| 裏地の破れ | 動くたびに広がる | 補修で済むうちに |
ボタンは無くしてからでは遅い。既製品でも同じボタンが手に入らないことがあり、全部交換になることもあります。
予備のボタンが付属していれば取っておいてください。スーツの内側や、購入時の袋に入っています。
そしてポケットに物を入れる癖があると、その部分だけ早く傷みます。生地が伸びて形も崩れるので、スーツのポケットは基本的に空にしておくほうがいい。
買ってから気づく難点
手入れの限界も明確にしておきます。
| こういう場合 | 考え方 |
|---|---|
| テカリが出た | 摩擦で繊維が潰れている。基本的に戻らない |
| 虫に食われた | 穴は直せるが跡は残る。予防が全て |
| サイズが合わなくなった | 手入れの問題ではない。直しに出す |
| 手入れが続かない | ブラシだけでいい。完璧を目指さない |
最後の項目が現実的です。クリーニングの頻度を減らして、2着を交互に着て、ブラシをかける。この3つだけで寿命は大きく変わります。
アイロンや部分洗いまでやろうとすると続かないので、まずはブラシと休ませることから始めるのが確実です。
1つ目のテカリについても補足します。摩擦で繊維が潰れて光を反射している状態なので、基本的には元に戻りません。軽度ならスチームと蒸しタオルで多少改善しますが、期待しすぎないほうがいい。
だからこそ予防が全てです。座り方に気をつけ、2着を交互に着て、アイロンを直接当てない。この3つでテカリの進行はかなり遅らせられます。
あわせて読みたい
- スーツ選びは、メンズスーツの完全ガイドもどうぞ。
- サイズについては、スーツの試着ポイントの記事もどうぞ。
- 持ち運ぶときは、出張のパッキングの記事もどうぞ。
汗をかく季節は、夏の生地の記事もあわせてどうぞ。
最後に
クリーニングは油性の汚れを落とす代わりに、生地の油分も落とします。適正はシーズンに1〜2回で、月1回は出しすぎです。本当に効くのは日常の手入れのほうです。
最も効果が大きいのは2着を交互に着ること。単純な2倍以上に持ちます。そして帰宅後にポケットを空にして厚みのあるハンガーに掛け、ブラシを1分。これだけで寿命が変わります。
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