コートを出した朝、去年と同じ香水になんとなく手が伸びない。香水を探しはじめるのは、たいていそんな季節の変わり目です。ただ、売り場の試香紙で数秒嗅いだだけでは、肌に乗せて3時間たった匂いまでは分かりません。名前や瓶の見た目から想像した香りと、実物がまるで違うこともあります。そこでこのページでは、僕がレビューしてきたメンズ向けの香水8本を、季節と香りの系統で並べ直しました。読み終えたときに決まるのは、次の3つです。
- 今の季節に出番がある香りの系統
- 自分の服と予定に合う1本
- 何プッシュで止めればいいか
選ぶ前に見る3つのこと
寒い季節か、暑い季節か
まず決めたいのは、いつ使うかです。僕が使ってきた8本のうち4本は、出番の月がはっきり寒い側に寄っていました。ラボラトリオ オルファティーボのサクレステは11月から2月。ビリー アイリッシュのアイリッシュ No.2も11月から2月の朝に使っています。ル ラボのサンタル 33は、上着を出す10月の終わりごろから、シャツ1枚になる5月の連休あたりまで。イストワール ドゥ パルファンの1740 マルキ ド サドも、気温が下がってからの香りでした。反対に、メオ フシュニのシュクランは5月から9月、J-Scentのラムネは6月から9月が出番です。モスキーノのアイ ラブ ラブとキャシャレルのアナイス アナイスは、季節より時間帯で選ぶ2本でした。アイ ラブ ラブは8月の日中だけ避けていて、アナイス アナイスは真夏でも甘ったるくなりません。
煙か、甘さか、涼しさか
次は香りの系統です。大きく分けると5つになります。お香や煙の方向なら、サクレステ、アイリッシュ No.2、サンタル 33の3本です。サクレステは乳香を2種類重ねていて、アイリッシュ No.2はインセンスとパロサント、サンタル 33は煙る数種の木を香調に挙げています。革の香りに甘さを足したいなら1740 マルキ ド サド。涼しさがほしいならシュクランとラムネで、明るい柑橘ならアイ ラブ ラブになります。アナイス アナイスは、粉っぽくて清潔な匂いの1本です。甘さの量も分かれ目になります。サクレステには果実もバニラも入っていません。シュクランも砂糖を入れる前のミントティーのような香りで、甘さはありませんでした。逆に1740 マルキ ド サドとアイ ラブ ラブは、はっきり甘さが出ます。
何時間もって、何プッシュで足りるか
最後は持続とつける量です。僕の体感でいちばん長かったのはサンタル 33の8時間ほどで、朝に1吹きすれば帰宅まで残りました。1740 マルキ ド サドは6時間ほどで、こちらもひと押しで足ります。ラムネとアイ ラブ ラブは3〜4時間と短めです。そのかわり、アイ ラブ ラブは肌から消えたあとも服に残りました。量の上限がはっきりしているのはサクレステで、2プッシュまで。アナイス アナイスは近い距離でしか届かないので、2〜3プッシュが目安です。服への残り方も見ておいてください。アイリッシュ No.2とサンタル 33はニットやマフラーに長く残ります。ラムネは公式の使用上の注意で、白や淡い色の服と薄い生地に直接つけないよう書かれています。
8本をひと目で比べる
| 商品 | 向く人 | 気になる点 | |
|---|---|---|---|
| {{laboratorio-olfattivo-sacreste-review | ラボラトリオ オルファティーボ サクレステ}} | 冬の昼にお香系をまといたい人 | 2プッシュが上限、甘さがなく服を選ぶ |
| {{histoires-de-1740-marquis-sade-review | イストワール ドゥ パルファン 1740 マルキ ド サド}} | 革の香りに甘さのクッションがほしい人 | 立ち上がりが大きい、120mLは持ち歩けない |
| {{billie-eilish-eilish-no-2-review | ビリー アイリッシュ アイリッシュ No.2}} | ウッディや煙の香りを選んできた人 | 甘さは控えめ、ニットに残る量が読みにくい |
| {{le-labo-santal-33-review | ル ラボ サンタル 33}} | 朝1回で1日もたせたい人 | 1シーズン重ねた上着は洗うまで抜けない |
| {{meo-fusciuni-2-shukran-review | メオ フシュニ 2 シュクラン}} | 夏に甘くない香りを着たい人 | 寒い季節は寂しい、減りが速い |
| {{j-scent-ramune-review | J-Scent W07 ラムネ}} | 夏だけの1本や香水の1本目を探す人 | 体感3〜4時間、白い服に直接つけられない |
| {{moschino-i-love-love-review | モスキーノ アイ ラブ ラブ}} | 朝の柑橘で気分を切り替えたい人 | 柑橘は30分で引く、真夏の日中は甘さがふくらむ |
| {{cacharel-anais-anais-review | キャシャレル アナイス アナイス オリジナル}} | 香水っぽさを出さず清潔感だけ足したい人 | 屋外では届く範囲が狭い、粉っぽさが好みを分ける |
冬に出番が来る煙と革の4本
ラボラトリオ オルファティーボ サクレステ(LOP3019)
乳香を2種類重ねた、乾いたお香系のオードパルファムです。一言でいうなら、火を落としたあとの香炉と冷たい石の床。煙そのものより、煙が通り過ぎたあとに壁に残っている匂いに近いです。香調は3つの層で公開されています。トップはシストゥス ラブダナム、エレミ、カルダモン、サフラン。ハートはインセンスのハイパーエッセンスとフーメンセンス、ハイドロカーボンレジン、シプリオール、ブラックペッパーです。ベースはバージニア シダーウッド、グアイアックウッド、カシュメラン、アンバーマックス、ムスクでした。ハートの乳香が3時間ほど真ん中に座り、そのあとカシュメランとムスクが肌の温度を拾って体温のある匂いに変わる流れは、ラボラトリオ オルファティーボ サクレステのレビューで層ごとに追っています。決め手は量の守り方でした。2プッシュが上限で、僕は胸元に1、首の後ろに1で止めています。部屋で3プッシュした日は、30分後に自分で軽く咳き込みました。体感の持続は5〜6時間です。合わせる服は、チャコールのウールコートやグレーのハイゲージニット。果実もバニラも入っていないので、パーカーやスウェットの日には香りと服がちぐはぐになります。甘さという取っかかりがないぶん、香水の1本目にもすすめにくい香りです。容量は100mLと30mL。冬しか出さないなら30mLでも足ります。
イストワール ドゥ パルファン 1740 マルキ ド サド
革の香りに憧れはあるのに、首元に置く勇気が出ない。そんな人の背中を、甘さのほうから押してくれる1本です。香調はトップがベルガモットとダバナ、ミドルがパチュリ、コリアンダー、カルダモン。ベースにシダー、バーチ、ラブダナム、レザー、バニラ、エレミ、イモーテルが入ります。濃度の表記はオードパルファンです。甘さは干した杏のような濃さで、菓子の匂いには転びません。革と甘さが同じくらいの強さで続くので、革だけが強くなる時間はほとんどありませんでした。つけ方は、胸の中心にひと押しだけ。体感は6時間ほどで、脱いだニットやコートには翌日も残っていました。試すなら手の甲に置いて、10分ほど待ってから決めてください。最初の数十秒は甘さが濃く出すぎます。弱点は立ち上がりの大きさです。慣れないうちに2回押した日は、一日じゅう自分の甘さを引きずりました。真夏のTシャツにも合いません。容量は15mL、60mL、120mLの3つです。120mLは重くて持ち出せないうえ、週に2、3回押して一年たっても、肩のあたりから指一本ぶんしか減りませんでした。イストワール ドゥ パルファン 1740 マルキ ド サドを何年もかけて使う瓶として見るなら大きい瓶もありですが、住み着かせる覚悟がないなら、小さい瓶から入るほうが安心です。
ビリー アイリッシュ アイリッシュ No.2
名前から甘い果実の香りを想像すると、開けた瞬間に当てが外れます。花で始まって、煙で終わる香りです。系統はウッディ フローラル、濃度はオードパルファム。トップにイタリアン ベルガモット、アップルブロッサム、インセンス。ミドルはパピルス、ブラックペッパー、ワイルド ウェット ポピー フラワーです。ベースのパロサント、エボニー、スキンムスクが、この香水の本体だと僕は思っています。アップルブロッサムの甘さは林檎の花の青さで止まっていて、砂糖の匂いはしません。僕の腕では、吹いて10分ほどで乾いたお香の匂いに入れ替わりました。持続は肌で体感5〜7時間。気をつけたいのは布のほうで、ウールのマフラーは2日たっても煙の匂いがしました。寝る前に腕に吹いた日は、朝の枕カバーからも同じ匂いが返ってきます。ビリー アイリッシュ アイリッシュ No.2は、肌の上で静かになったあとも布の上では元気に残る香りです。同じセーターを2日続けて着ると前日の香りと重なるので、僕は服から離れた手首と首の後ろだけに吹くようにしました。出番は11月から2月の朝で、家を出る15分前に手首へ1プッシュです。真夏は汗と混ざって、煙の部分がべたつきました。容量は100mLのほかに小さいサイズも3つあります。
ル ラボ サンタル 33
キャンプの翌朝、上着に残っている焚き火の匂い。その心地いい側だけを取り出したような、煙る木の香りです。ル ラボは香調を層に分けず、煙る数種の木、スパイシー、レザリーなムスキーノート、カルダモン、アイリス、バイオレットを挙げています。濃度はオード パルファムで、容量は50mLです。僕が好きなのは、カルダモンの乾いた辛さでした。木の皮を噛んだときのような辛さがあるので、煙が重たくこもりません。アイリスとバイオレットは控えめで、鼻を近づけると粉のような柔らかさが分かります。決め手は持続で、体感8時間ほど。朝に1吹きすれば、帰宅して上着を脱ぐときにもまだ残っています。50mLは少なく見えますが、1シーズンを越えても半分以上残っていました。困ったのは服への残り方です。上着やマフラーに1シーズンぶん重なると、洗濯に出すまで抜けません。なので僕は首筋だけにつけています。2吹きした日は自分で香りを追いかけてしまい、集中できませんでした。途中で引っ込まない香りなので、予定に合わせて香りを変えたい日には向きません。出番は上着を出す10月の終わりごろから、シャツ1枚で出られる5月の連休あたりまで。ル ラボ サンタル 33は、僕にとって1年の半分だけ働く香水で、残りの半年は箱に入れて休ませています。
暑い季節に涼しい2本
メオ フシュニ 2 シュクラン
モロッコのミントティーがテーマの、涼しさで勝負する香水です。淹れたてのミントティーをそのまま着るような香りでした。公式はトップ、ハート、ベースの3層を出しています。トップがモロッコ ナナミント、レモン、リツェアクベバ。ミドルはモロッコ カモミール、レモングラス、ヴァーベナ、ユーカリです。ベースにはタバコとサンダルウッドが入ります。濃度はオードパルファン、容量は100mLです。清涼菓子のミントではなく、生の葉を指でつぶしたときの少し苦い匂いまで出ます。砂糖を入れる前のミントティーで止まっているので、汗をかいた日でも気持ち悪くなりませんでした。ただし涼しさは一日続きません。3時間を過ぎると、乾いたタバコの葉とサンダルウッドの静かな匂いに変わります。煙たさは薄く、乾いた葉を紙にはさんだときの匂いに近いもので、メオ フシュニ 2 シュクランのレビューではこの後半を「急に大人になる」と書きました。体感の持続は5時間ほどです。出番は5月から9月。洗いざらしのリネンシャツにレザーのサンダル、土曜の午前の散歩がよく合います。弱点は2つあります。11月を過ぎるとひやりとした冷たさが寂しく感じること。それから、もう一回吹きたくなって減りが速いことです。僕の使い方だと、100mLでも一年はもちませんでした。日本での正規の取り扱いはノーズショップなので、探すときはブランド名から入るのが確実です。
J-Scent W07 ラムネ
ラムネの香水と聞くと、子どもっぽくないかと身構えますよね。僕も瓶を手に取るまでは同じでした。実際には、夏にだけ使う大人の1本として気持ちのいい香りです。香調は層に分かれていません。レモン、アルデハイド、ミント、ローズ、ミューゲ、マグノリア、ムスク、バニラの8つです。濃度はオードパルファン、容量は50mLになります。ラムネらしさを決めているのはアルデハイドでした。炭酸を飲んだときに鼻へ抜ける、しゅわっとした感じがあるんです。ローズやミューゲ、マグノリアも入っているのに、僕の鼻が拾うのは花束より駄菓子屋の奥の匂いで、8つの素材がどう届くかはJ-Scent W07 ラムネのレビューで分けて書いています。バニラは粉砂糖くらいの軽さなので、甘い香りが好きでも重いのは苦手という人に合います。香水をこれから始める人の1本目にも選びやすい香りです。使うのは6月から9月の、夕方から夜の入口。Tシャツやリネンのシャツ、サンダルの日に合わせています。気になる点は2つです。持続が体感3〜4時間と短く、夕方のつけ直しが前提になります。もう1つは、公式の使用上の注意に「シルクや薄い布地、白または淡い色の衣服には、直接つけないでください」とあることです。夏服は白や淡い色が多いので、僕は手首と首の後ろだけに落ち着きました。ジャケットを着る日は、甘さが休日寄りで噛み合いません。
日中に軽く使う2本
モスキーノ アイ ラブ ラブ
朝、玄関で手首に1回だけ吹いて出かける。そういう使い方にはまる、明るい柑橘のオードトワレです。トップはグレープフルーツ、オレンジ、レモン、レッドカラント。ハートにラッシュ、スズラン、ティーローズ、シナモンの葉が入り、ベースはムスク、シダーウッド、タナカウッドです。吹いた直後は皮ごと握りつぶしたような柑橘で、甘さはありません。30分を過ぎるとスズランとティーローズが出てきて、薄めの紅茶に蜂蜜を少し溶かしたような甘さに変わります。シナモンの葉のおかげで、甘ったるくはなりませんでした。肌の上では体感3〜4時間と短めです。それでも朝のシャツを夜に脱ぐと、襟から甘い部分だけが返ってきます。ウールのマフラーには翌朝まで残っていました。昼の柑橘で買って、夜に服から返ってくる甘さで好きになった、というのがモスキーノ アイ ラブ ラブとの付き合いの順番です。気をつけたいのは、柑橘目当てだと30分で物足りなくなるところです。8月の日中は汗で甘さがふくらむので、僕は吹くのをやめました。つけ直すなら服の上ではなく肌の上でどうぞ。朝のぶんが残った上着に重ねて、甘さが二重になった日があります。容量は30mL、50mL、100mL。初めて買うブランドは小さい瓶からと決めているのと、香りが強めで1回で足りるので、僕は30mLを選びました。
キャシャレル アナイス アナイス オリジナル
香水というより、風呂上がりの人とすれ違ったときの匂いです。外より家の中で働く1本でした。1978年に生まれた香りで、今の濃度はオードトワレ、容量は100mLです。キャシャレルは香調を公表していません。ここで書くのは、僕が腕で受け取った印象だけです。芯にあるのは、粉を薄くはたいたような白っぽさ。洗いたてのタオルや、化粧台の引き出しを開けたときの匂いに近いです。甘さはそこそこありますが、乾いた質感で押さえられているので重くなりません。洗剤の甘さと石けんの甘さの中間くらいでした。使うのは屋内の昼です。家に人を呼ぶ休日なら、胸元と首筋に2〜3プッシュ。体感4〜5時間で、脱いだシャツの襟には翌朝まで残りました。白いシャツや淡い色のニットと合わせると、香りと服の質感がつながります。弱点は届く範囲の狭さです。風のある日に外で使うと、昼過ぎには自分でも分からなくなりました。粉っぽさが苦手なら合いませんし、4プッシュを超えると粉っぽさだけが強くなります。最初のひと吹きだけで決めないほうがいい香りです。売り場では「アナイス アナイス オリジナル」と「アナイスアナイス」の2通りの表記があり、片方で検索すると出てこないことがあります。直販がないので、並行輸入品の表記が付くことも珍しくありません。見つからないときは、キャシャレル アナイス アナイス オリジナルのレビューに書いたとおり、もう片方の書き方でも当たってみてください。
迷ったときの選び分け
季節で2本を入れ替えるなら、サンタル 33とシュクランは引き継ぎがきれいです。サンタル 33を棚に戻すのが5月の連休あたりで、シュクランの出番は5月から始まります。ただ、シュクランは9月まで、サンタル 33は10月の終わりごろからなので、10月だけは間が空きます。甘さを入れたくない人は、サクレステかシュクランから選んでください。冬ならサクレステ、夏ならシュクランです。初めての香水なら、ラムネのように甘さが軽くて分かりやすい香りから入るほうが失敗しにくいでしょう。サクレステは甘さの取っかかりがないので、何本か試してからのほうが楽しめます。服に香りを残したくない日が多いなら、つける場所を先に決めておきましょう。アイリッシュ No.2は手首と首の後ろ、サンタル 33は首筋だけにすると、ニットや上着に重なりにくくなります。
しまう場所まで決めておく
冬だけ、夏だけと決めて使う香水は、閉じたまま置いておく時間のほうが長くなるものです。僕はサクレステとサンタル 33、シュクランを、買ったときの箱に戻してしまっています。サンタル 33はクローゼットの上段、シュクランは廊下の収納の下段です。直射日光の当たる窓際、湯気の立つ浴室、暖房の風が当たる場所は避けています。冬しか出さないサクレステの100mLは、使い切るのに何年もかかるでしょう。開けている時間より閉じたまま置かれている時間のほうが長いので、その数年で何を浴びたかが香り方を決める、と僕は考えています。季節の変わり目に瓶を出したら、空いた箱には次に休ませる瓶を戻しておいてください。
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